顧客体験を向上させるアジャイルなIVR運用術

貴社のIVRは「おもてなしの玄関」ですか? それとも「難解な迷路」ですか?

IVR(自動音声応答システム)は、単なるコールの振り分け係ではありません。それは、お客様が最初に訪れる企業の「玄関」であり、顧客体験(CX)の質を大きく左右する重要な要素です。

しかし、多くの企業でこの「玄関」は古く、複雑で、一度作ったら滅多に模様替えされることのない「難解な迷路」と化してしまっています。その根本原因は、変更に多大な時間とコストを要する、旧来の「ウォーターフォール型」の運用体制にあります。

この記事では、その旧弊な運用から脱却し、顧客体験を劇的に向上させるための「アジャイルなIVR運用術」について、その原則と具体的なテクニックを解説します。


なぜ従来のIVR運用は失敗するのか?
「ウォーターフォール型」の3つの限界

従来のIVR運用は、要望→依頼→要件定義→見積もり→開発→テスト→リリース という一直線のプロセスで進められます。このモデルには、現代のビジネス環境において致命的ともいえる、3つの限界が存在します。

遅すぎる(Slow)

キャンペーンの開始や急な障害発生など、ビジネスの要求スピードに全く追いつけません。ガイダンスが変更される頃には、キャンペーンが終わっている、という笑えない事態も起こり得ます。

高すぎる(Costly)

メニューの順番を入れ替える、ガイダンスの文言を少し変える、といった軽微な修正ですら、都度開発コストが発生します。費用対効果が見合わないため、小さな改善は後回しにされ、顧客の不満は放置され続けます。

硬すぎる(Rigid)

一度作ったフローは「聖域」となり、誰も手を加えようとしません。結果、お客様は延々と続く複雑なメニューを聞かされ、たらい回しにされた挙句、企業のブランドイメージを損なってしまうのです。

新しい常識「アジャイルIVR」を実現する3つの原則

これらの課題を解決するのが、ビジネスの変化に俊敏に対応する「アジャイルIVR」という考え方です。
これを実現するには、以下の3つの原則が欠かせません。

原則1: セルフサービス(Self-Service)

ITの専門家でなくても、ビジネスを最もよく知る現場の担当者が、直感的なGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)を使ってIVRフローを自由に構築・修正できること。これがアジャイルIVRの核となる原則です。

原則2: 反復と改善(Iteration)

最初から完璧なフローを目指す必要はありません。まずはシンプルなフローで開始し、お客様の反応(データ)を見ながら、短いサイクルで改善を繰り返していくことが重要です。

原則3: データ駆動(Data-Driven)

「お客様がどのメニューで離脱しているのか」「どのメニューが最も多く選ばれているのか」といったデータを分析し、勘や経験ではなく、客観的な事実に基づいて改善の意思決定を行うことが求められます。

今日から使える「アジャイルなIVR」7つの実践テクニック

メニューはシンプルに
1階層の選択肢は4〜5個以内にとどめ、お客様を混乱させないようにしましょう。

自然な言葉で対話する
「ご用件を短い言葉でお話しください」と問いかけ、お客様が話した言葉をAIが理解して適切な窓口に繋ぐ「NLU(自然言語理解)」の導入を検討しましょう。

コールバックを提案する
待ち時間が長くなる場合は、お客様を延々と待たせるのではなく、「順番が来たらこちらからお掛け直しします」というコールバックの選択肢を提供しましょう。

CRMと連携し、
パーソナライズする
お客様の電話番号からCRM情報を参照し、「〇〇様、先日ご注文いただいた商品についてのお問い合わせですか?」といった、一人ひとりに合わせたおもてなしを実現しましょう。

営業時間を動的に管理する
営業時間外や休日にかかってきた電話には、ガイダンスを自動で切り替え、営業再開時刻やWebサイトへの誘導をアナウンスしましょう。

テストし、測定し、繰り返す
アジャイルの原則に立ち返り、常にIVRの利用状況を分析し、小さな改善を継続的に行っていくことが、最高の顧客体験への唯一の道です。


まとめ

コンタクトセンターのIVR運用は、IT部門に依存する硬直的な「ウォーターフォール型」から、ビジネス部門が主導する俊敏な「アジャイル型」へと進化させる必要があります。

お客様が最初に触れる「企業の玄関」を、常に清潔で、分かりやすく、温かいおもてなしの心に満ちた場所に保つこと。それを実現するテクノロジーは、もはや特別なものではなく、すべての企業が手にできる時代になっています。


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